――シーズン1がとても好評でしたが、続編は早くから始動していたのでしょうか。
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シーズン1のドラマ版が2019年の10月~12月に放送されました。撮影中から手ごたえはありましたが、でも前作の劇場版で『Final Battle』と言っているくらいですし、僕としては完全燃焼するつもりでやっていました。ただ、すごく面白いので、永森さんとも「続編を」という話は出たことがあったと思います。思った以上に早く書き上げられてきて驚きましたけど(笑)。
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シーズン2のドラマ版1話は、2019年の12月に書き終わっていたので、放送中に書いていたわけです。やる気満々でした(笑)。主演の市原隼人さんもかなりノッてくれてましたから、もう書いちゃおうと。最初に自分が思っていたイメージとはいい意味で違う甘利田を市原さんが生み出してくれたことで、逆に私がそこに乗っていく感じになりました。頭の中で甘利田のキャラクターが自由に動いていきましたが、市原さんのお芝居は、シーズン2でも、さらにその上というか、上にも横にも行きましたね(笑)。
――続編へのスタートは早かったものの、新型コロナ流行に突入してしまいました。
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最初に書いたものは、黍名子中学校の2年1組に神野ゴウ(佐藤大志)が転校してくるところからスタートしていました。そのときは、映画の続編については考えていなくて、毎年10月期にシリーズとしてやれるドラマになったらいいなと考えていました。でも2020年の夏は撮影ができなくなり、1年先送りになりました。それに前作の映画『Final Battle』は、2020年3月の公開スタート直後、新型コロナの影響で映画館がストップしてしまいました。それでリベンジの意味も含めて、映画も続編をやろうとなっていったんです。
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生徒と先生が本気の給食バトルを繰り広げるという『おいしい給食』の世界観として、前作の中学1年生がちょうどいい年齢でした。なので、中学3年ではちょっと大人っぽすぎるかなとも思いましたが、でも甘利田と対決するのはやっぱりゴウがいい。そう考えると中3にせざるを得ない。最初は難しいかなと思いましたが、結果としてさほど違和感がありませんでした。それに2年生の部分が空いたことで、予想以上に大きくなったゴウに再会した驚きがプラスされました。ちなみに生徒たちのキャスティングは、シーズン1の時はリアル中学1~2年の子たちを起用しましたが、今回は、リアル中学2~3年の子をメインにしました。
――今回は、卒業に向けて「完食」を目指すゴウと、甘利田の前に、「給食がまずくなる」という新たな危機が立ちはだかります。この危機のアイデアはどこから?
――鏑木さんたち大人を前にしたシーンはゴウくんの見どころでもあります。演じた佐藤さんの成長をご覧になっていかがでしたか。
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あそこはイメージ通りでしたね。佐藤くんも直江さんもよかった。
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ゴウとの山場でしたね。口対口の対決で、本当は『半沢直樹』みたいに大仰にしようと思っていたのですが、撮影場所に市議会場を使わせていただいたので、なかなかの厳戒態勢だったんです。
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ゴウも言いたいことはちゃんと言うけど、緊張してる感じがあって、最初の狙いとは違っても、撮影場所が生んだ制約がいい方に働いたのかもしれないですね。
――シーズン2では、前作の御園ひとみ先生(武田玲奈)に代わって、ヒロインとして宗方早苗先生(土村芳)が登場しました。
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武田さんの演じてくれたひとみ先生と差別化するために、ポジション的には甘利田の上にくるんだけれど、年齢としてはまだ若い先生を考えました。ただキャラクターとしては脚本であまりきっちり描き切らないようにしました。演じる役者さんや綾部監督のイメージで膨らんでいくように。演じ方によってはもっと冷徹な感じや、逆に甘利田に翻ろうされる感じにもなったと思いますが、土村さんが演じたことで今の早苗先生になりました。
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確かに早苗先生に関しては、しっかりと芯はありながらも、余白を作っていただいていました。どこまで強くいくのかは役者によって自由に現場で含ませられるなと。土村さんの持っている柔らかな雰囲気が役に作用しましたね。冷徹すぎずに少し背伸びをして甘利田に対抗している、戸惑ったりするリアクションもうまく演じていただきました。
――甘利田先生と早苗先生のクライマックスのシーンがとても好きです。
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僕もすごく感動しました。市原さんは振れ幅がすごいので、あそこでグッと入って行く説得力があるんですよね。やっぱりすごいなぁ、深いなぁと。
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あそこはこの映画で一番こだわったドラマ部分です。給食とゴウとのシーンについては、これまで培ってきたものがありましたが、土村さんとのシーンに関しては、一番難しい表現に挑戦しようと思いました。市原くんと土村さんとも、前段階から珍しく話し合いました。土村さんには「ここを芝居の一番のピークにしたい」と伝えましたし、市原くんにも「今まで見せたことのない甘利田の表情を見せよう」と。スタッフにも特別なシーンにしたいと言って撮影しました。
――箕輪校長(酒井敏也)と駄菓子屋のおばさん・お春さん(木野花)についてもひと言。
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校長先生は、言ってみれば理解者にしたいというのは決めていました。前回、常節中学校の校長を酒向芳さんにやっていただいたので、違うアプローチの引き出しがある俳優さんがいいなということで、酒井さんの名前はずいぶん前から上がっていたのですが、お忙しい方なので簡単には無理だろうと思っていました。しかし出演シーンも大いにもかかわらず、念願が叶いました。木野さんもまさか出ていただけるとは思わなかったのですが、OKしていただけて。おふたりとも完璧でした。
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いい意味で、酒井さんと木野さんは、本当に脚本通りのイメージをうまく膨らませていっていただけましたね。僕もおふたりともずっとファンだったので、ご一緒できて嬉しかったですし、こんなにハマるとは思わなかったです。
――具体的なシーンについても聞かせてください。またしても酔っぱらう甘利田が登場しました。酔拳には笑いましたが、あそこの演出は?
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あれは脚本に書いてないです。ちょうど、僕も撮影現場に行ってたんですけど、「いったい何をしてるんだろう」と。「あ、酔っぱらった翌日だから『酔拳』なのか、なるほど」と(笑)。
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ああくるとは僕も予想していなかったです(笑)。あれが市原隼人のすごさですよね。試食会に行ってスパイもののようなアクションを見せるシーンにも驚かされました。あそこは実は撮影場所が変わったんです。当初予定していたところが、コロナの関係もあって使えなくなって、警備員から逃げて、そこから鏑木さんを見かけるという一連の動きに変更を加えることになりました。結局、建物の屋上の中庭を1階と想定して撮ったんです。そして、脚本のような建物を使って動き回る流れが無理なら、ひとつひとつの動きを少し派手にして逃げようと。『ミッション:インポッシブル』みたいに、トム・クルーズっぽく走って逃げてこけたりしようとなりました。
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『ミッション:インポッシブル』だったんだ(笑)。
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そこで市原くんがすごいのは、伝えてすぐにできるのと、「階段を一気に駆け下りてきてください」とお願いしたら、「分かりました」といって、段をすべて飛ばしてジャンプして降りてきたんです。脚本で書いてあることを現場に対応しながら膨らませて、市原くんがさらに意図を理解して飛躍させてくれたシーンでした。
――あのシーンは甘利田先生の私服もすごかったです。
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かっこよくするパターンも考えたのですが、やっぱり面白いほうがいいだろうと。さらに、変装してるんだけど、なぜか目立つ赤で来ていると(笑)。それから野球帽に関しては市原くんがかなりこだわりまして。今の人って野球帽のつばを曲げたりしないけど、当時は曲げてましたよね。あの感じを出すために、物語の舞台の80年代に近い帽子を探したのですが、結局オリックス・ブルーウェーブの帽子しか見つからなかったんです。でも86年当時はまだブルーウェーブじゃなかったので、衣装部が帽子を傷つけないように、Bのマークを時間をかけて丹念に取ったんです。
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今の帽子でも曲げられるものがあるんじゃないの?
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あるかもしれないですけど、今のものってちょっと形が違っちゃうんです。
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そんな時間がかかったシーンだったんだね。
――ところで給食の配膳の際に、甘利田先生も生徒と一緒に並んでいますね。
――最後に劇場版公開に際して改めてひと言お願いします。
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甘利田とゴウの最後の戦いを見届けるのに、今まで見てきたファンの方がちゃんと腑に落ちるものになったかなと思っています。プラスいろんな要素が加わっているので、そこをどう観ていただけるのか楽しみです。
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やっぱり何といっても、甘利田とゴウの対決を見てほしいですね。給食シーンに関しては、今回3回戦プラス、甘利田は外での試食会もあります。間違いなく楽しんでいただけると思います。もちろん映画だけでも楽しんでいただけますが、ゴウとのラストという意味では、シーズン1から見ていただいている方のほうが、より深く感じていただけるかと。ファンの方はより感慨深いラストに受け取ってもらえるんじゃないかと思います。